「成熟」

「成熟」

このキーワードは何回か記してきたのですが、日本を代表する産業と比較するととても遅れている家具業界には、何とか良い方向に向かってもらいたいとの気持ちが背景にあります。

何よりも選択肢の幅がとても狭いことが気になり、残念ながらヴォリュームゾーンは安価な製品にあるようです。

当然のようにそれらの多くは日本製ではないもので、それゆえの品質でも多くの人たちが満足するだろうと一体誰が考えたのでしょうか。

もっとも、決して満足はしていないのかもしれませんが、価格に見合った製品と言う点において決して不満はなのかもしれません。

また「実際売れているのであれば一体何の問題があるのか…」との声も聞こえてきそうです。

中学生の頃より家具が好きで、結果としてこの業界に身を置くことになった当時のことを考えると、少なくとも現在のような安価な製品の比率はとても低かったように思われます。

むしろ一般的な感覚では高額な製品が多く見られたもので、それゆえそれらをいつか手に入れたいとの憧れに似た気持ちが向上心や勝手な業界発展の期待に結び付いていたようにも感じられます。

しかしながら皮肉なことに業界は総体的に安価な製品にシフトしていくことになったもので、いつしか家具の価格帯に対する常識も塗り替えられていったようです。

そうなると次なる世代にもその常識が受け継がれることになりますので、そのような環境下では「高額な製品を開発しても売れない」と一蹴されてしまうことも理解できないものでもありません。

それだけにとてももどかしい想いが募ることになっているのですが、自信を持って開発した製品を、自信を持って販売することが出来れば少しずつでも変わっていけるのではないかとの想いにて行動しているものです。

「恰好悪さ」

恰好良いとか恰好悪いとか、小さな頃より好きだった車について友達と良く言い合っていた記憶が思い出されます。

1970年代にはスーパーカーブームなるものもあり、当時は現車を見ることは難しかったこともありミニカーを収集することで我慢していたものです。

その中でも、格好良いと意見が合致するものもあればそうでもないものもあり、これは主観的なものゆえ当然のことなのですが、傾向としてはかなり特徴的なデザイン性のものは好き嫌いもはっきりしていたようです。

以前にも記しましたが日本を代表するような工業製品のひとつに自動車があり、それだけにそれら企業のデザイン部にも優秀な人材が集まります。

しかしながら、その中より生み出される車種は決してスーパーカーのようなデザイン性のものばかりではありません。

速さやそれゆえの性能を誇るスポーツカーであれば、重要度高く空力抵抗も考えられていることからも一般的に格好良いと感じられるデザイン性に寄るのでしょうが、いわゆる大衆車はその限りではありません。

スポーツカーと比較すると格好悪いと評されるものもあるかもしれないものの、大前提としてこれらも日本を代表する大企業より生み出されるものだと認識する必要があります。

燃費性能も求められることからも空力についても充分検討されているでしょうし、つまりそれも計算され尽くされた結果として開発されていると言うことであり、そのデザインにも意味があると言うことです。

広く大衆向けに販売するためには燃費や価格だけではなく、そのデザイン性も広く受け入られる必要がありますので、好き嫌いが少ないものであることが条件になるでしょう。

このような概念は家具の世界においてもあって然るべきとも思われるものの、残念ながら業界として成熟していないことからも大衆向けのデザイン性ではなく単にバランスが悪い格好悪いデザインになっていることが少なくないため、業界として健全に成長することに期待したいものです。

「ブランディング」

ブランディングには相応な時間も費用も要します。

それだけに成功させることは決して容易なことではないと思われるものの、それを行うことの意味合いはとても大きなものがあるとも思われます。

大前提としてしっかりとした芯が必要になり、少なくとも都度の思い付き程度の軽さでは不可能なことは間違いないでしょう。

また「数を打てば当たる」との性質のものでもないため、更に成功する可能性はとても低いのかもしれません。

これは個人的な感想なのですが、家具業界においては往々にして他社のブランディング戦略については批判的な見方になることが少なくないようです。

そこには健全な競争意識以外の感情が入り込んでいるようにも感じられ、それだけにどうしても他業界と比較すると遅れているようにも感じてしまいます。

真の意味でブランディングに成功したメーカーに対しては結果として正しかったことを否定することは出来ないもので、それに負けずと取り組む姿勢も大事なのでしょう。

一方、ブランディングの形にもいろいろなものがあるでしょうし、その手法においても現代においてはそれこそ多種多様とも言えます。

記憶に新しい東京都知事選挙において、次点だった方は今どきらしくSNSも上手に活用したようです。

多くの予想とは反する結果になったことにより何かと話題にもなり、選挙後の本人の様々な発言が一部批判の対象にもなっているようですが、ニュートラルな立場で言えば総合的に賛同できるところもあれば出来ない部分もあることに尽きます。

このように、新たな取り組みに対しては往々にして批判の対象になりがちな傾向が見られますが、各々の真の強みを活かした戦略を練ることによりブランディングの見え方も変わってきますので、先ずは意識的に動かすことだろうと考えます。

「ストレッチ生地」

デザイン性に三次曲線が用いられたソファ等の場合、一般的に表皮材をその形状に綺麗にフィットさせることは難しいものです。

それゆえ部分的にタックを取ったり立体縫製を駆使したりと、少なくとも二次曲線を用いたデザイン性と比較すると相応に手間を要する作業になります。

また、しわを消すためにも細かな調整が可能な張り込み仕様のほうが望ましく、いわゆるカバーリング仕様においてこのような形状を綺麗に表現することは難しいことが現実です。

それゆえ、そのような形状を表現するために表皮材にはストレッチ生地が用いられることが多いものの、性質上それ自体の表情としては単調になりがちな印象を持っていました。

ソファ用の張地として多くを用いている実績からもイタリア生地メーカー各社と接する機会は少なくなく、何年も前よりこのようなストレッチ素材を紹介されていたのですが、現実的に単調なものが多くそれらを採用することに積極的ではありませんでした。

今年においても某イタリア生地メーカーの担当者が来日され、例年通り多くの新作を紹介されることになったのですが、今年においてもジャンルとしてストレッチ素材もいくつか紹介いただくことになりました。

今まではその表情からも興味を抱くことはなかったものの、今年においてはその限りではなく、生地自体の表情としてもおもしろいと感じられるものも相応に見られます。

その瞬間に、それらを効果的に用いることが出来る新たなソファデザインや他の使用方法についても頭に浮かんできます。

ソファにおいては影響力が小さくない張地を活かすためのデザインアプローチも少なくなく、当然のように小さなサンプルより完成形のイメージを膨らませることになります。

このように、素材より新たなデザイン性に結び付くことも少なくないもので、そのように考えると用いられる素材と共にデザイン性も進化し続ける必要があるのでしょう。

「製品開発」

ウッドフレームタイプのソファにおいても、張りぐるみタイプ同様にその座り心地がとても重要な要素となることは言うまでもありません。

 

一方では、ウッドフレーム部分を製造するメーカーとクッション部分を製造するメーカーはまったく別と言っても過言ではないことからも、一般的にその座り心地において満足できるものは少ないことが現実です。

 

その反対に、張りぐるみソファ専門メーカーが独自にハイクオリティのウッドフレームソファを製造することはほぼ不可能とも言えます。

 

このことは以前にも記したことがありますが、いわゆる「餅は餅屋」と言うことであり、また各々はとても特殊性が高いジャンルゆえ安易に参入することは難しいものです。

 

先ずはそのことを理解する必要があるのですが、意外と安易に考えがちなこともあり、結果としてハイクオリティとはとても言えない製品が開発されている現実もあるのでしょう。

 

それゆえ、各々の分野における専門メーカー同士が力を合わせる必要性があり、何よりも双方が尊重し合える技術力を有しているのか見極めることがとても重要になります。

 

その分野のプロ集団だと感じることが出来れば安易に口出しするようなことはないのでしょうが、コスト面のせめぎ合いになると意外と安易にデザイン性に手を付けることが少なくないのかもしれません。

 

例えばですが、背もたれフレームの本数を減らすとか、座クッション上面の角度を無くすとか、その時点で単に似て非なるものをつくり出す方向に向かっていることを認識すべきなのでしょう。

 

特にソファにおいては立派に製品化されている製品であってもデザイン性において大いに疑問が残るものも少なくないため、おそらくこのような過程にてデザイン性が犠牲になったものと思われます。

 

デザイン性の絶対的な底上げのためにも、健全な議論を経たうえで製品化してもらいたいとの気持ちです。