「タイムスリップ」

「タイムスリップ」

毎年足を運ぶように心掛けているのですが、先日はIFFT東京家具見本市視察を行いました。

国内メーカーにおいてはいつもの顔ぶれとなるもので、益々小規模開催となることからも特段真新しいことがあるものでもないことを早々に確認することになります。

昔のことを言っても仕方ないのですが、30年以上前はそれこそ華やかな展示会だったもので、ナショナルブランドだった大手国内メーカーのブースはとても広かったことを思い出すことになります。

その当時からも少なくなかったのでしょうが、中国メーカーの出展比率が高まったことからも、また相応なソファ展示も見られたこともあり思わず足を止めることになりました。

その瞬間に積極的に案内されることになり、当方はバイヤーではないデザイナーとなることも認識されたうえで、反応する間もなく畳み掛けてきます。

「ソファは30万円では絶対売れない」・「10~20万円が最も売れる」・「クッションの中身も見てください」・「羽毛を用い、内部ウレタンもチップではないものを使用している」・「ウェビングテープも使っているため底付き感もないでしょう?」・「正直に言ってどうですか?」…。

そのようなマーケットがヴォリュームゾーンとして根強く残っていることやその必要性についても否定することもないため、参考までに耐久年数(何年くらいで座クッションがへたってしまうのか)について質問してみました。

率直なところ、その価格帯であれば7~8年持てば上等かとも思っていたのですが、「ウレタンについては特別言及されることもなく、下地に用いているウェビングテープは10年もすれば伸びてくると思います(逆に10年は持ちます)」との回答です。

30年前にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を覚えることになったもので、「何年持ちますか?」との質問に対しては胸を張って正直に答えられるような製品開発が必要になることを強く再確認することになりました。

「ソファの足下」

いわゆる造作ソファの場合は、台輪と言われるものや建築工事にて造られた下台の上にソファやクッションを乗せるような仕様となることが多いため、基本的にソファの下に埃が蓄積するような環境にはなりません。

更に、そのおさまりや見え方をよくするためには、それらを設置後の最終工程においてカーペット工事を行うようなこともあります。

そうなると完全に床面との間の隙間は見えなくなりますので、これにより完成度の高い造作ソファになるものと思われます。

このようにソファ下の掃除を不要とするためには、建築工事との兼ね合いも含めて事前の仕様決定には慎重になる必要もあるでしょう。

一方では、造作ソファにおいては壁面を背負わす形状が一般的なことからも、ソファの足下をきちっとシーリングすることにより実際の床面積は狭く感じてしまいます。

充分な広さがあればそれも問題にはならないものの、お部屋を少しでも広く見せるための手法として、ソファの足下を極力浮かすことがあります。

それにより実際の床面の縁も見えてきますので、足元までしっかりと囲ってしまうよりも比較的広く感じられるものです。

このことはソファに限ったことでもなく、例えば壁面一面に造作ボードを設置するような場合においても同様な手法を用いることも可能です。

足下を浮かすことにより比較的軽快な印象にも結び付きますので、特に大型家具を設置する際には効果的な手法と言えます。

また、床面より30cm程度はハウスダストが舞う埃ゾーンとのデータもありますので、極力浮かすことにより衛生面においても効果的とも言えるでしょう。

一方では足元はあまり浮かさない方がどっしりとした印象にもなりますので、総合的に判断されることをお勧めします。

「価格のからくり」

某有名海外ブランド家具においては、ほぼ一年中セールを行っている印象があります。

それゆえセール期間中以外に購入されることは避けられるようにも感じられるのですが、結果として購入に至るのであればこれも販売手法として間違っていないのかもしれません。

一方では、冷静に考えると仮にセール価格で販売される期間の方が長いと言うことになれば、セール価格の方が適正価格ではないのかと思われるはずです。

買い物の心理として、それが適正価格なのかには関係なく、一旦元価格が提示されるとセール価格との差額が大きいほどお得感を感じることになります。

また家具においては、ハウスメーカーや設計事務所等の法人を経由することにより定価より安く購入可能なことも少なくありません。

その場合はメーカーが法人に対して卸販売を行うことになりますので、当然ですがメーカーとしての利益率は下がります。

経由する法人にも相応のマージンが落ちることになり、尚且つ施主様に対する値引き販売が基本となりますので、相応な掛け率にて卸すことになることは容易に想像できるのではないでしょうか。

それだけに、当然ですが利益率を下げてでも卸販売することのメーカーとしてのメリットがあるからで、仮にそれがなければ法人を通す必要性も理由もまったくありません。

しかしながら悪しき慣習としてメーカーは法人に対して卸販売することが当然のような流れもありますので、先ずは無意味な卸販売は行わないメーカーとしての姿勢を示すことだろうと考えます。

このように、定価よりも安く購入可能なことに対しては必ずからくりがあることを認識すべきで、メーカーとしては自信を持って設定したベストプライスが安易に崩れることのないような方向性を構築すべきでしょう。

「価格の概念」

以前にも記したことがありますが、日本においては安価なソファが氾濫していることもあり、残念ながらその価格に対する概念は低いままのようです。

一方では、高級ソファだとイメージされているイタリアの有名ブランドメーカー製となると価格も相応に高額となることからも、一般的には最初から選択肢となることは少ないものです。

ソファが販売されている場所も背景としてあるようで、それは一般的な家具店やインテリアショップだけではなくホームセンターや一部大型家電量販店でも取り扱いがあります。

これは個人的な印象かもしれませんが、そもそも一般的な家具店ではデザイン性も機能性も優れたソファの扱いはなく、それらのイメージは数十年前と大きく変わることはありません。

少しばかりお洒落な印象があるインテリアショップにおいては、扱われているソファはいくつかの限られた分野に分類できるくらいに何処も同じように見えてしまいます。

ライフスタイルショップと言われた当時は、オリジナル製品を独自に開発されていたこともあり、同類テイストは少なくなかったものの相応にオリジナリティが感じられたものです。

このように考えると、おそらくですが扱われているソファ自体に個性が無くなってしまったことが背景としてあるようで、結果としてソファに対するイメージは価格帯も含めて何処も同じとの印象を与えているように感じてしまいます。

やはり良い意味での個性が必要になるでしょうし、それにより選択肢が広がることにも繋がりますので、「安価であれば売れるだろう」とか、「安価でなければ売れない」とかの安易な意識面も改善してもらいたいものです。

また、そのような現状だからこそ個性的な純国産ソファの選択肢をもっと増やすことも大事で、実際使って納得できるクオリティに見合った価格帯製品が増えてくることが重要だろうとも考えています。

「機能するデザイン」

とても残念なことですが、大学時代の恩師と言える先生がお二人ともお亡くなりになりました。

お二人の偉大なる先生からはそれぞれプロダクトデザインとインテリアデザインを学んだもので、それが家具デザインの礎になったことは間違いありません。

一方では、典型的な若気の至りとも言えるのでしょうか、当時はそれほどまでに偉大な先生方だとは強く認識することもなく、もっと多くのことを積極的に学ぶべきだったとの後悔にも似た想いを今でもずっと抱えています。

5年ほど前には25年ぶりくらいにお二人の先生ともお会いすることになったのですが、当方が真っ先にご挨拶に伺ったところ、お二人とも当方のことを懐かしそうに名前で呼んでくださいました。

学ぶ立場だった学生がお世話になった教授陣の名前を憶えていることは当然ですが、ずいぶんと老けてしまった学生の顔だけではなく名前まで憶えていて下さったことには感謝の気持ちでした。

もっとも、これも今思えば若気の至りなのですが、お一人の先生には同じ大学の学生だった妻との結婚式での仲人を務めていただき、また列席いただいた他の先生方には有難くスピーチも頂戴しました。

スピーチの内容についても印象に残るワードを今でも記憶していますので、本当に恵まれた学生時代を過ごすことが出来たものだとつくづく感じるものです。

デザインを学ぶうえでの印象に残るワードも心に刻み込んでいますので、デザインのテクニックはもちろんのこととして、最も重要なこととしてそれに取り組む意識面を学んだものです。

少なくともその意識面はデザインを考えるうえで絶対外すことは出来ないことになっていますので、やはりデザインを専門的に学ぶことの意味合いはとても大きいものとも考えています。

どのような業種も共通するものと思われますが、より専門性を要するものであればやはりプロの存在は必要不可欠ですので、自称デザイナーが少なくない業界ですが、機能するデザインの本質を探り続けていきたいと考えています。